いつか、誰かの願いごと
丘を上がった先には、誰もいなかった。
いかにもカップル向けの噂話が流れているくらいなので、誰かしらはいると思ったのだが。
まあ、いても気まずくなるだけなので、丁度いいが。
「おお、意外と綺麗だな」
丘の一番高い辺りで、草の上に腰を下ろし、空を見上げる。
満天の星空、とまでは言えないが、それなりに綺麗な夜空。
こんな風にじっくりと星を見たのはいつ以来だろうか。
少なくとも、最近では無いことは確かだ。
それからしばらくの間、夜空を眺めていた。
そろそろ帰るか、と思い始めたところ、ふと気配を感じて座ったまま振り返る。
「......あっ、ええっと、邪魔しちゃいました?」
聴こえてきたのは、少女の声。
暗くてわかりにくいが、おそらく白いサマーワンピースを着ている。
顔はよく見えない。
「いや、もう帰ろうと思ってたところだから」
そう言いながら、スマホの電源を入れ、次回を表示させる。
9時を過ぎた辺りだった。
高校生はもう帰らなければいけない時間だろう。
少し考えてから、少女に問う。
「もう9時過ぎてるけど、大丈夫か?」
すると彼女は、「ふふっ」とすこし微笑んだ。
「初対面なのに、心配してくれるんですか?優しいんですね」
どうだろうか。
これでも俺は男だ。女性の心配をするのは普通だと思うが。
「優しさついでに、少しお話しませんか?」
少しおどけた調子の声。
その誘いを、俺は断らなかった。