NEXT 2U
3
次の日の朝は、気分悪くなるくらい、よく出来た空が広がっていた。
どこまでも澄んでいる。この俺さえも照らしている寛大な太陽。
なんとなく寒気がして、スポーツバックとラケットを肩にかけなおした。
朝の教室は閑散としている。おまけに静かだ。参考書か文庫本と皆は対峙している。
新しい席につくと、机の上に、ノートがあった。俺のものでは決してない。犬が目を潤ませて首をかしげて、安っぽい女みたいな表情をしている、写真、が表紙のノート。
橋田百合。
「あ、ゴメン」
隣の彼女が突然声を上げた。
「さっき勝手に置かせて貰っちゃって。ゴメン」
俺は半ば呆然とした感じで、ひったくるように優しく俺の手からノートを取る彼女を見ていた。
ノートの裏に書かれた名前。きっとそれが彼女の名前だ。
橋田百合さん。
はいちゃんと覚えました、と脳の中で呟いた。まあ、橋田さんは確かに、動物が好きそうな顔をしている。
一人納得して、鞄から化学の参考書を取り出したが、どうにも視線を感じて面を上げた。
橋田さんが俺を見ている。
「おはよう…吉田くん」
名前を言うのにそんなにためらわなくても。
「あ、うん」
俺としては最上級の笑顔を作った。苦笑いと思われがちだけれど。
「今日は、暑いね」
「うん」
「クーラーまだつかないのかなぁ」
「つくんじゃない?コントロールかけられてるの5月一杯までらしいし」
「そうだね」
彼女は下を向いた。
「…暑いね」
「うん」
何故今同じことを2回言ったんだろう。まあ俺も同じ返事したけど。
「…うん、今日は暑いよ、うん」
「うん」
彼女はそのまま目を逸してしまった。
何だろう。変わった子。