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はい?と精一杯の誠実さと丁寧さを持って答えた俺から、彼女は目線をずらし、
「ゆりぃ、おはよう」
と笑顔を橋田さんに向けてみせた。
誰ですかあなた。
彼女は挑発的とも言える態度で、それはもう絵に描いたような、顎を突出し見下して、瞼を細く開いて、この俺の肩を二度叩いた。
「アタシ百合の友達。ここまでわかる?」
はあ。
「で、百合と話したい。そして座りたい。でも彼女の隣には君がいたわけだ」
ええそうですね。
「故にこの席をしばし私に譲ってくれと頼んでいる。わかるか?」
わかりたくない。
あぁこの人知ってる、と内心うなった。
よく騒いでいる人。不快感をもたらす高音ではなく、でも騒々しさで彼女は誰にもひけをとらない。乱暴な喋り方。この横柄な態度。
眼中に入れたくないから彼女のことは知らない。もっともクラスメートであることを認識しているだけましだ。とりあえず橋田さんの友人であるとだけ属性を付与する。
この女は一歩も動かない。
なんて奴だ、橋田百合の友人A。友人A子。
「やめときなよ瑛子ちゃん」
おぉ、名前当たった。
「えー…あ、少年、君の名前は何と言うのかね」
「吉田です」
何故答えたんだ俺。
「吉田?あー番付で見てるよーお勉強出来るんだね僕ー」
彼女は俺の肩に軽く手を回した。
「吉田誠ーどいてよこの席ーアタシにさ、譲ってくれないかなーほらクラスメートじゃんこれから宜しくしようよー」
なんとなく肩にグッと力が入れられたのを感じとって、俺は参考書をバタンと閉じた。
「わかりましたよ!譲ればいいんでしょう立ちますよ今どきますよ!」
「それでよし。ありがとうね」
彼女は目を細めて、ガキ大将なんかより遥かに質の悪そうな笑顔を作った。