NEXT 2U
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「じゃあまた明日!」
自転車にまたいだ彼が言って、俺たちはじゃあなーと手を上げた。
ようやく三年生が引退した部活の中で市民権を得られるようになったことに感謝しながら、部員同士の交流と称して馬鹿騒ぎをする。
電車に揺られて最寄り駅にたどり着く。
あたりはすっかり暗く、疲労感は増し加わる。
早く帰りたい。
壁にもたれかかった。
最寄り駅と言えど、家から車で40分の所だ。
親の存在に感謝する。むしろ車の存在に。
手にした携帯電話から突然無駄にキャッチーなメロディーが鳴り響き、あわてて通話ボタンを押した。
何だ、今の着うた?
抱いてセニョリータ?
何で?ダウンロードした記憶もないのに?
「誠?誠?」
「あ、ごめん。でさ、迎え来」
「ごめんねぇ。用事入ったから行けなくなって」
「お母さん。僕部活で疲れてるんですよ。冗談きつくないですか」
「歩きな歩きな。筋トレだよ。江戸時代のこととか考えなさいよ、車なしで人間は生活できるということは存分に証明されたでしょう」
「筋トレは部活で存分にしましたし今は平成ですね」
「そんなに言うならタクシー使ってもいいよ」
「金がない」
「じゃーね。」
単調な電子音があの母親の笑い声に聞こえて、耳を通話口から離した。
嫌だな、あの血が自分の中にも流れてるとか。
最悪だ。
親は無理を言うし着信音が俺の知らぬ間に山Pときた。
最悪。
どうしよう。歩くのか?歩くのか、俺?どうすんの?どうすんの、俺? つづく
コマーシャル風に頭の中で言ってみてちょっと落ち着く。オダギリジョー気分にはさすがになれない。
「何にやけてんのよ」