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「吉田ー助けてー」
 息も絶え絶え青息吐息。という表情で博は俺にすがりついた。文字通り。
 大袈裟な顔するなよ。家計火の車弟家出不治の病セット価格でお付けします。みたいな。
「どうしたんだよ」
「俺今回のテストで」
「あーあの最低点18点ってお前だったの」
「よくわかったね」
「まあお前以外にあのテストでそんな点取れそうな奴いないし」
 そっかぁと彼が頭を掻いた。いや、今俺全然褒めてないからね。

 俺が途端に学年中を見下した課題テストで、彼、仁科博は、記念すべき全教科学年最低点の記録を樹立した。おめでとう。
 あれから何度かテストを経験しているのだし、つまりどうせその度に最低点も経験しているのだし。いい加減慣れたらどうだい博くん。
「僕今回かなりやばいよ」
今回もまた、と言ってくれ。
「吉田はさあ、なんでそんなに出来るわけ?意味わかんない」
君とは生来頭の構造が違うんだ。
「数学とか、この先の人生で使わないと思うんだよね、絶対!!」
有用性を問う暇があったら進級の心配をしてくれよ。
「数学がなきゃ絶対バラ色だよ?人生」
他の教科の成績はどうなる。
「ねぇ吉田聞いてる!?」
「うん、大丈夫。なんとかなるよ。頑張れ」
 素晴らしいな俺の演技力。大絶賛だね。


 休み時間の10分は短い。授業時間の10分はあんなにゆっくり流れるのに。
 教室の前の壁に張られた時間割りに目をこらす。ぼやける。机の上の眼鏡をかけて、数学の下を確認した。
「博、次化学だって。小テストあるよな?」
あー勉強しなきゃ、と彼はいそいそと自分の席に戻った。

 どうせ一時間後、さっきの会話の化学版を聞かされるだろう。



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