NEXT 2U

 ひかされたクジに乱雑に書かれた番号は、教室の真ん中行きの切符だった。
 寝るにはいい場所だよな。寝ないけど。あくまで予定ですが。

「じゃあ席移動してください」
HR委員長が声を枯らしている。指示聞いてあげなよ、可哀相だろ。皆何をそんなに騒いでいるんですか。HR委員長の彼女が可哀相だと思いませんか。俺あの人の名前知らない、という事実が今発覚しました。ごめんなさい、HR委員長さん。

 担任の民主主義的クラス運営により、席替えが実施されることになったようだ。
 約2ヵ月間の俺はというと、出席番号順だった席のおかげで周りを女子に囲まれ、なんとなく居心地が悪いような気がしていた。
 ふと後ろの席と隣の席の人の名前を思い起こす。
 吉山さんと皆川さん。よし、さすがに覚えている。


 席を移動する
 先生の視線と教室の出入り口から離れた場所に、内心、若干、心が踊る。
 QOL急上昇ですね。QOL。クオリティオブライフ。生活の質。
 隣に目をやる。
 女子だ。
 そう認識して少し落ち込む。英語のペアワークで教科書読みあったりしなきゃいけないじゃん。小テストだって交換しなきゃいけないじゃん。
 まあ見られて恥ずかしい点は取らないからいいけど。
 この人名前なんて言うんだろう。
 苦笑。
 やっぱり覚えてないクラスメートの名前。

 本当にクラスメートだったかすらも疑って彼女を凝視していたら、視線がぶつかった。
 一寸の間がある。
 俺の指がびくりと動いた。ためらっているわりに目をそらせない。
 彼女は、怪訝そうな表情を一瞬も浮かべず、口角を上げた。
「よろしくね、吉田くん」
 あ、うん。と咄嗟にうなづくと満足したようで、彼女は椅子を引いた。
 教室の空気は気がつくと大分おとなしくなっていて、俺も腰掛けた。
 隣の席の「彼女」
 名前は、まあ、これから覚えていけばいい。そう思った。


 先生が話をしはじめた。向き直る。
 あまりにも景色が違った。
 たまに博の席から眺めていた休み時間の風景。この黒板との距離。左右に人がいる感覚。
 リセットだ。
 この席から始まる。再スタートのようなもの。
 妙な新鮮さに動かされ、俺は汚れた黒板を真正面から見据えていた。



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