パクチーの王様 ~逸人さんがあやしい物を見ています~
「そういえば、あんた、田舎へ引きこもる話はどうなったのよ?」
と日向子が訊いてくる。

 いや、日向子さん。
 田舎の人全員が、街から引きこもっているわけではないと思うんですが……。

 まあ、街中で生まれ育ち、街の暮らしを愛している日向子からすれば、わざわざ田舎に行って住もうということ自体が信じられないのだろうが。

「山の生活もいいかな~とは思うんですけどね」

 だが、そういう芽以の頭の中にも、暖炉であぶったチーズと焼きたてのパンくらいしか思い浮かんではいなかった。

 芽以も所詮、街で暮らしたことしかない人間。

 山での生活といって、思いつくのは、そのくらいのものだった。

「そうだね。
 山もいいよね~。

 僕もいずれ、山にアトリエとか構えたいんだよね~。

 まあ、そのためには一発当てなきゃだけど」

 そう言う静に日向子が言う。
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