パクチーの王様 ~逸人さんがあやしい物を見ています~
「赤ずきんちゃんは、やさしいおばあさんのところに、どんぶらこ~、どんぶらこ~」
芽以は絵本を広げて、翔平とカーペットの上に並んで寝転んでいた。
「どんぶらこ~、どんぶらこ~」
芽以の言葉を繰り返し、翔平が楽しそうに笑う。
「芽以、翔平が間違って覚えるだろうが」
と出張の前に家に寄ったという兄、聖《ひじり》が文句をつけてくる。
母とキッチンに立っていた水澄《みすみ》が、醤油の瓶を取りにパントリーに向かいながら、
「きっと、途中に滝でもあって落ちたのよ」
と笑う。
赤ずきんちゃんは、パンの入ったカゴを手に、お椀に乗って、滝から落ちて、そのままおばあさんのところまで、どんぶらこ~、どんぶらこ~。
……優雅でいいかな、とちょっと思ったとき、聖がネクタイを直しながら、
「まあ、いいんじゃないか?
親がこうだと、芽以の子はしっかりするだろうな」
と言ってきた。