パクチーの王様 ~逸人さんがあやしい物を見ています~

 なにを言っているのかわからないのだが、その口調で、身内や友人などの親しい人間と話しているのではないとわかる。

 まさか、もう土地を買っているとかっ? と芽以はおびえる。

 会社を辞めると決まった瞬間に、この店を始める手筈も整えていた人だ。

 ともかく、潔くて行動が早い。

 でも、今回は妻の意見も聞いてください~っ、と慌てて下に下りると、逸人はちょうど電話を切ったところだった。

「あの、今のお電話は?」
と訊くと、

「……聞こえたか?」
と神妙な顔で言ってくる。

 やや、やはり、例のお話ですかっ?

 芽以の頭の中では、すでに、山でクマと遭遇し、クマがパクチーでゲーしていた。

 そうか。
 ゲー、するから、パクチー、デトックス効果があるんだな、と日向子が聞いてたら、
「違うわよ」
と即行言ってきそうなことを思う。

 そして、気づいた。
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