パクチーの王様 ~逸人さんがあやしい物を見ています~
「静、芽以から手を離せ」

 そこで、いきなり、厨房から逸人がやってきた。

 圭太相手だと、包丁だったり、鉄製のフライパンだったりする逸人だが、友人だからか、たまたま持っていたからか、軽そうな白のミルクパンを手にしていた。

 イマイチ、凶器っぽくない。

「逸人、芽以ちゃんが、逸人に避けられてるって言ってるよ」

 此処でも、ズバッと静は逸人に訊いていた。

「そんなわけあるか。
 それより、早く手を離せ。

 俺も芽以に触らないようにしてるのに。

 芽以とお腹の子になにかあったらどうする?」

「いや、腕つかんでるだけなんだけどね……」

「お腹の子になにかあって、芽以になにかあったらどうする?」

 静の話を聞かずに、逸人は更にそう言いつのる。

「待って。
 まず、出来てるかどうか確かめようよ」

 芽以ちゃん、早く検査薬持ってきて、と言われる。

 ひーっ。
 心の準備がーっ、と思う芽以の頭の中では、親たちの顔や、特注のベビーベッドがぐるぐる回っていた。
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