パクチーの王様 ~逸人さんがあやしい物を見ています~
芽以は山の中での二人きりの生活を妄想してみた。
鳥の声とともに目覚める朝。
家は何故か、巨大な木の幹をくり抜いた中にある。
この辺かなり子どもの頃読んだ絵本が混ざってるな~と思う。
ちゃんと窓もあるので、明るい日差しの差し込む木のおうち。
手作りの小さな木のテーブルと椅子に逸人さんと差し向かいに座る。
木のテーブルに並ぶのは、逸人さんが作ってくれたスイスの山奥の村で出てきそうな朝ごはん。
「いや、あんた、作んないの?」
という日向子《ひなこ》の声が聞こえてきた気がしたが、とりあえず、無視してみた。
逸人さんが暖炉であぶったチーズをパンにのせてくれて――
いや、さっきまで、妄想の中の木のおうちは初夏の眩しい朝の光に包まれていたのだが、突然、暖炉が出てきていた。
チーズをあぶりたかったからだ。