パクチーの王様 ~逸人さんがあやしい物を見ています~
朝、仕事をしている途中で生理になって、言い出せず、実家に行ってくる、と出て行き、昼働いてるときも言い出せず。
だが、今にもベビー用品一式を特注しそうな富美には、早く報告しなければと、重い足を引きずり、此処まで来たのだが――。
芽以の横にしゃがんだ逸人は、
「今、お義母さんから聞いた」
と言う。
「ほら」
と逸人が銀の保冷バッグから、チーズの包みを出してきた。
美味しそうなチーズの塊を見せてくれながら、
「ラクレットチーズだ」
と言う。
「うちではまだ扱ってなかったんだが。
お前が、いつぞや、これが食べたいという妄想を語っていたから」
火であぶって、パンやポテトにかけて食べるというスイスの料理、ラクレットに使われるチーズだそうだ。
「業者に頼んでおいたんだが、さっき、うちの店の料理にはこれが合うだろうと持ってきてくれた」
うちの店の料理って……、パクチーにかける気ですか、とそれを見る。