パクチーの王様 ~逸人さんがあやしい物を見ています~

 でも、そうか。
 あの電話、不動産屋さんじゃなくて、チーズの業者さんだったのか、と芽以は気づいた。

 逸人はワイルドに、まだ、くべてなかった枯れ枝にチーズを刺すと、火であぶる。

 芽以と圭太にそれぞれ、バケットをちぎってくれた。

 よく溶けたチーズをたっぷりかけてくれる。

「あ、美味しいけど、臭いっ」

「臭いけど、美味いな」

 そう芽以と圭太が言うと、
「ラクレットは匂いが強いからな。
 日本人用に匂いを抑えたものもあるんだが。

 パクチーにぶつけるなら、匂いの強いのがいいかと思ってな」
と逸人は言う。

 そのまま、三人で、暑い真昼の日差しと焚き火にあぶられながら、チーズとバケットを食べていた。

「……逸人さん、ごめんなさい」
と火を見つめ、芽以が言うと、

「何故、謝る。
 うちの親が勝手に早とちりしただけだろ。

 ……あの親、これからも何度も早とちるぞ、気にするな」
と逸人は言ってくる。
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