パクチーの王様 ~逸人さんがあやしい物を見ています~
木のスープ皿にスープ。
焼きたてのパンにあぶってとろけたチーズ。
好きじゃないけど、イメージ的に、しぼりたてのミルク。
そして、向かい合って座る私と逸人さんの間に、クマ。
――クマ!?
まあ、もう春ですしね……。
パクチーでゲーするクマさんもお目覚めになるでしょう。
そういえば、この間、逸人さんと車でお出かけしたときに、少し山の方に入ったら、クマ注意クマ注意クマ注意と狂ったように看板が出ているのを見たな、と芽以は思い出す。
ぬいぐるみや妄想の中のクマさんは可愛いが、現実には遭遇したくない。
だが、山の中にはきっと居るだろう。
農作業から帰ってきたら、クマが家の中でくつろいでいたという話も聞いたことがある。
紅茶の香りを嗅ぎながら妄想の止まらない芽以は、赤ずきんのようなマントを着て、カゴにパクチーを詰め込み。
道のど真ん中を塞ぐように立つクマの前に、来ないで~、とパクチーを投げつけていた。