檸檬の黄昏
茄緒も当たり障りないように過去を話した。
元モデルだったこと。
今は引退して無職なこと。
環境を変えたくて引っ越してきたこと、など。
「やっぱりモデルさんだったんだ。相川さん背が高いし、第一すごい美人だもんな」
スタイルもいいよねと、敬司が感心したように言った。
イチゴとマシュマロを焼いてチョコレートをかけた物を食べている。
耕平が茄緒にはバニラアイスに、炭火で溶かした熱いチョコレートをかけた物を差し出した。
茄緒は受け取りがら、
「長田さんも、坂口さんも、背が高いですよね」
茄緒は一七八センチ。
耕平は一八八センチ。
敬司は一九八センチ。
と、十センチ刻みで差がある三人であることも発覚した。
「何だか変な感じですね」
茄緒は笑った。
十センチ仲間、同じジャージ同盟に乾杯しようぜ、と敬司が云い、三人がそれぞれノンアルコール飲料の缶を準備する。
敬司は車で来ているので、それに合わせているのだろうか。
ふと、敬司が茄緒を見る。
「相川さん、千杯(カンペイ)って知ってる?」
敬司が訊ねたが、茄緒はいえ、と首を横に振る。
「中国の宴会なんかであるんだけど……例えば。今日出会った記念にカンペイしましょうってなったら、白酒を一気に呑まないといけない。さあさあ料理が出来ました、カンペイ!って感じで、お酒を次々に呑まないといけないんだ」
最終的に十杯も二十杯も呑まされることになる。
しかも白酒はアルコール度数が五十度近くあるという。
「ええっ、大変ですね!」
茄緒が驚くと敬司が頷く。
「テキーラみたいに小さいコップで呑むんだけど、キツイね。お酒が苦手なのに、もし中国でカンペイする機会があったら、あまり呑めないことは最初に伝えておくといいよ」
わかりました、と茄緒は素直に返事をする。
「ここは日本だから当然、日本式で乾杯だ」
改めて相川さんの引っ越し祝い、そして十センチ仲間、ジャージ同盟に乾杯、と三人は缶を打ち合わせ口を付ける。
いい人たちみたいで良かった。
茄緒はほっとした。
(わたしも頑張らないと)
空には宝石のように星が輝いてた。