檸檬の黄昏
バーベキューをしてから時は流れ十二月に突入し、ついに一年も残り二週間となったある日。
茄緒がいつものように朝のジョギングから帰ってくると、この時間には珍しく耕平が玄関から姿を現した。
バーベキュー以来である。
というより耕平は夜は家におらず茄緒は昼間は働き始めたため、会う機会がなかったのだ。
「おはようございます。お出かけですか?」
茄緒が挨拶すると耕平が気づき、こちらを見る。
「ああ」
気のない返事をすると、汗を流している茄緒を見る。
「いつも走っているのか」
「はい。習慣になってるんです。タイムも短くなってきましたよ」
茄緒は笑いガッツポーズをする。
そして先ほど道の駅で購入したコロッケを耕平に差し出した。
茄緒は、ほぼ毎日購入している。
「数量限定のコロッケです。良かったらどうぞ。少し冷めちゃいましたけど、おいしいですよ。先日のバーベキューのお礼じゃないですけど」
と付け加える。
耕平は拒否せずに受け取った。
空きっぱなしのトランクに視線を移すと釣竿とバケツ、クーラーボックスが見える。
「釣りにいくんですか?」
「ああ」
バーベキューの時にも耕平が釣ってきたという魚が塩焼きにしてあった。
玄関には七輪が置いてあり、そこでも調理するという。
「何かお手伝いしましょうか」
茄緒は申し出た。
「結構だ」
「実は、お話ししたいことがありまして」
「後にしろ」
耕平は茄緒を無視し自分のSUVに乗り込むと、そのまま走らせて行ってしまつた。
茄緒もすかさず自分の自動車に乗ると耕平を追跡する。
今日を逃したら耕平と会う日がさらに遅くなってしまう。
何度か茄緒は耕平とコンタクトを取ろうと自宅へ赴いたことがある。
しかし全て留守であった。
公休日らしい土日は家にいたことがなく、かといって仕事が終わってからも外出している事が多く、話す機会がないからだ。
茄緒は車を走らせた。