檸檬の黄昏


茄緒が二足の草鞋を履き働くようになって早くも二ヶ月が過ぎた。


クリスマスはもちろんアルバイト、耕平の会社は取引先の接待パーティーがあったそうだが敬司が出席した。
耕平は違う会に出席していたらしい。


二人とも連日、忘年会などで忙しく、あっという間に年を越してしまったようだ。


敬司が気を使い、うちらも忘年会やろうと云っていたが、予定が合わずに終わってしまった。

茄緒はといえば耕平の会社が正月休みの年末年始は道の駅でガッチリと働き、正月休み明けは、また二つで働く。


全く色気のない年末年始を終え、朝はジョギングをしながら道の駅まで向かい、品だしやレジを行い、帰ってきたら着替えて、耕平の事務所で夕方まで働くというリズムを刻んでいる。


最初はミスを連敗し何度も耕平に叱られた。


その度に敬司がフォローに回り、茄緒はやってこれたように思う。
時給が良いという理由もあるが。

自宅で育てている檸檬の木は暖かい室内の陽当たりの良い場所に置いておいたおかげか、黄色だった葉は緑色に変わってきた。


それを見ては和み励まされ、癒されている。


そんな毎日を過ごしているうちに事務所の仕事にようやく慣れてきたのか、近頃は海外からの連絡も取りついだり、スムーズに資料作成できるようになり、メールにも日本の四季の様子や出来事をひと言、添付したりして茄緒らしく仕事を楽しむ余裕も出てきた。


広告代理店、IT投資会社でのアルバイト経験が役に立った、と茄緒は息をつく。


事務から営業、経理や雑務なども二人でこなしていたというから驚きだ。

その仕事量は相当なものだったろう。


「だから会社は小さいんだよ」


茄緒ちゃんが事務作業してくれるから、その時間を違う事に使えるようになって、本当に助かっているよと敬司に感謝されたことがある。

言葉には出さないが、それは耕平も同様のはずだ。

耕平の会社は小さいながら輸出業をしているだけあって、英語を使う事が非常に多い。


英語だけではない。


耕平は英語の他にフランス語、ドイツ語が使え、イタリア語をかじった程度に話せるというが、イタリア語は苦手だと常々口にしている。


敬司は英語の他、中国語、台湾語とアジア系言語を得意とし、近頃は韓国語も話せるようになってきたそうだ。


有能な二人の経営者に挟まれた茄緒は、くじけそうになることがある。


見た目あんな感じなのに。


耕平は年が明けてもボサボサ髪で、髭を剃らないから伸び放題だし、敬司はスキンヘッドにサングラス、縦にも横にも大きい塗りかべのような男だった。


事務所は喫煙者のヘビースモーカーの男ふたりだけであったためか、室内は煙草の匂いが充満して匂いがひどく、天井もパソコンも書類もヤニがついて黄色っぽく変色している。
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