檸檬の黄昏
「必要ないだろう、そんなこと」
耕平は当然のように却下する。
「いや今回はそうしよう。二人出席で返信しておくからな」
茄緒のパソコンにいつのまにか入りこんだ敬司が、メール送信してしまった。
「おい、敬司」
「これで茄緒ちゃんのドレスアップした姿が見られるぜ」
ニカッと笑いブイサインを送る。
白い歯が覗いた。
「敬司さん、大丈夫なんですか?それにわたし、服なんて持ってませんよ」
茄緒が不安げに口を開く。
「それはうちの母さんに頼めば問題ないから。今から連絡しておく」
早速スマホを取りだし耳に当て、通話が繋がる間に更に敬司は言葉を続けた。
「会費も会社持ちだから安心して。耕平だけが出席しても、女に囲まれて終わりだろう?茄緒ちゃんが一緒の方が絶対いい」
耕平は憮然とし、それから一言も口を聞かなかった。
すっかりご機嫌斜めになってしまった耕平を見つめていたが、茄緒には疑問が浮かぶ。
女に囲まれる?
敬司は耕平が女性からモテるということを示唆しているようだが、茄緒には耕平がそういう風には思えなかった。
熊のような見た目な上に無愛想で感情が少なく、いつも不機嫌に見えるので道の駅でも不審者扱いされている。
それとも何か別の意味があるのだろうか?
茄緒は考え込みながらも事務作業を始め、敬司は鼻歌まじりにパソコンに向かい、耕平は終始不機嫌のまま時間が過ぎていった。