檸檬の黄昏


茄緒がアルバイトに精をだし、時間を見て小夜の採寸を受けたり服を着るための身体作りを始めた頃。


週刊誌に、とある弁護士が掲載された。


『今大注目の、爽やか弁護士!』


弁護士として活躍する一方で、甘いマスクで女性を虜にする美貌の持ち主として注目されている、との記事だった。


その自分の記事を見て男が笑みを浮かべると、週刊誌をテーブルの上へ放り投げる。


栗色の髪、白い肌に整った顔立ち。

やや細身の長身に茶系のスーツを身につけた優しげな容姿は、まるで天使のような美貌の男である。


「悪くないね」


ここは都内の一等地な建つ高層マンションの最上階の自宅である。

広いリビングには高級家具一式が取り揃えてあり、そのソファに腰かけたまま男は満足気に長い足を組んだ。

テーブルには鳥かごが乗っている。

美しい翼を持った生き物が好きだとテレビで発言したことがあったのだが、彼のファンだという人物から贈られたのだという。

スタッフが断れずに受け取ってしまったという小鳥を、彼は自宅に持ち帰った。

白く美しい文鳥で手乗り用に調教されている。


「美しい愛玩動物か。まるで……」


男は鳥かごに美しい手を差し入れると小鳥を手に乗せ、取り出した。

手の上で落ち着いているが時折、羽ばたくような仕草をする。
とても愛らしく可愛らしい小鳥だ。

男の瞳が残虐な黒いものを宿す。


「まるで茄緒だな」


羽ばたく翼を男は掴んだ。

小鳥は悲鳴をあげ逃げようと羽ばたき、もがくたびに羽が飛び散る。
男はためらうことなく羽を掴んだ手に力を込める。
嫌な音をたて、小鳥の片翼は簡単に砕けてしまった。


「だが茄緒は、こんなことじゃ挫くことはできない。早く会いたいよ」


禿は興味を失い、小鳥を鳥かごに放り投げる。

小鳥はかごの中で無事な片翼を懸命にばたつかせている。
その様子を楽しそうに眺める。



「今度は逃げられないように、完全に羽を折ってやらないとダメだな。ぼくの茄緒」



天使のような美貌に悪魔の笑顔を浮かばせ、ばたつく小鳥に手を伸ばし、掴む。


週刊誌には数年前、元妻への暴力を掲載されかけたことがある。

元妻は病院からはいつの間にか消え、家も変わっていて行方不明だ。
周囲からは半ば強制的に離婚届けに判子を押すように諭され、しぶしぶながら受け入れた。



「これは愛し合うぼくたちの試練だな」



彼は楽しそうに笑う。

彼は茄緒の元夫、禿雅史(かむろ まさふみ)であった。


彼が部屋から出て行ったとき、小鳥は羽を散らし動かなかった。





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