檸檬の黄昏
禿雅史
さらに月日は流れ、三月。
親睦会の日がついにやってきた。
二人の会社が恥をかかないようにと、茄緒は体型にも気を付けてきた。
二月はバレンタインデーがあり、茄緒は限定チョコレートを購入したが食べずに冷蔵庫に保管してある。
親睦会が終わったら心おきなく食べる予定だ。
上司ふたりにも一応、義理なチョコレートを渡した。
敬司は素直に喜んでくれたが、耕平は思った通りの素っ気ない返事だった。
そして迎えた当日はなるべく自然に派手にならないように茄緒はメイクを施し、ドレスを身につけた。
耕平は前日の夜に取引があり、時差の都合で一緒には会場へ向かうことができず敬司が場所まで送ってくれた。
高速道路を使い車で一時間の場所である。
茄緒のドレス姿に終始感動し、敬司はべた褒めだった。
茄緒は照れ臭く感じながらも、ありがとうございます、と素直に敬司の言葉を受け止め、兼ねてから疑問だったことを口にした。
耕平の妻のことである。
結局、見たこともない。
敬司とふたり、良い機会なので茄緒は訊ねた。
耕平に訊いても教えてはくれないだろうと茄緒は思っていたからだ。
敬司はすんなりと教えてくれた。
「耕平の奥さんは、もういない。亡くなってる。もう十年くらい経つかなあ。交通事故が原因だったらしいよ」
敬司が云った。
「そうだったんですか」
茄緒が何とも言えない表情をする。
敬司も表面上は深刻な顔をして頷いた素振りを見せたが、心の中では友人を思い出し笑みを浮かべていた。
頑なに心を開かなかったあの耕平がバーベキューに他人を、茄緒を呼んだ。
これは重大な変化である。
しかしそれを教えるほど、敬司はお人好しではない。
「酸っぱい通り越して苦味を感じる、こじらせた檸檬も砂糖漬けにしたら、すごく美味しいよな」
「?」
突然の敬司の言葉に茄緒は疑問しか出なかったが、敬司は上機嫌である。
やがて会場場所にたどり着く。
帰りは耕平に送ってもらって、と敬司が手を振る。
茄緒もそれに笑顔で答えた。
会場はホテルで、立食形式の食事会だった。
すでに沢山の着飾った男女が会場で談笑している。
入り口付近に耕平の姿はなく、中へと茄緒は先に入る。