檸檬の黄昏
翌日。
朝から雲一つない快晴である。
古い六畳間の畳に布団を敷いて寝ていた茄緒は、目を覚ますと大きな伸びをした。
布団一色を外のテラスへ引っかけ干すと洗面を済ませる。
そしてランニングパンツ、ランニングシャツと軽めのブルゾンを身につけると髪を一つにまとめ、サンバイザーをかぶる。
玄関を出ると空気は冷たく息が白い。
軽く身震いをする。
水分補給のための水筒を持つと庭で軽いストレッチをするとジョギングに繰り出した。
ジョギングはモデルを始める前の学生時代からの彼女の日課である。
療養中の二年、中断した時期があったが、それ以外は続けている。
しかし茄緒は運動は苦手だ。
そんな彼女がなぜジョギングかといえば理由は単純である。
競技でなければ自分のペースで運動ができるから、というものだ
。
そして実は昨日、買い出しがてらのドライブで茄緒は道の駅を見つけた。
あまり大きくない店舗だったが駐車場は車が300台程駐車できる広さがある。
店頭の看板でここには特産牛を使った数量限定のご当地コロッケがある事を知り、絶対食べると茄緒は決意していた。
片道三キロ、往復六キロ。
丁度よいジョギングコースだと、茄緒は思ったのである。
周囲は田んぼと山の景色を眺めながら上り坂あり下りありの市道を時間をかけて、ゆっくりと走り約三十分後、茄緒はゴールした。
そして彼女の考え通り汗を流した後に目的の物を手に入れる事が出来た。
コロッケ2つ、ミックスサンドイッチ2パック。
朝食用と昼食用に一つずつ。
店外に用意してあったベンチに座り、揚げたて熱々のコロッケを頂く。
美味しい。
手間隙かけて作ったであろうコロッケはじゃがいもの食感と風味が存分に感じられ、牛肉も惜しげもなく入っている。
これは数量限定のはずだと茄緒は納得し、あっという間に完食してしまった。
朝のひやりと爽やかな空気の中での朝食、何という贅沢な時間だろう。
茄緒は一人感激しサンドイッチを頬張りながら、ふと見渡すと植物の鉢植えが見えた。
近づいてみると苔や盆栽、多肉植物や果樹類などの鉢植えが置いてありる。
サンドイッチを食べながら行儀悪く、何気なく見回っていると茄緒は見切り品になった小さな檸檬の木を見つけた。
高さは茄緒の膝の高さ程度だが季節のせいもあるが葉はすでに落ちていて、残っている葉も黄色になっている。
寒々しい状態であった。
しかしよく観察すると枝に潤いがあり、新芽の準備をしているように見える。
それを見て茄緒がサンドイッチの残りを口に放り込み、口を動かしながら考えこんでいると。
「茄緒ちゃん」
と声をかけられた。
中肉中背の身長で一つに纏めあげた髪に手拭いを被った中老女性であった。
品のよい顔立ちに顎にある黒子が印象的な美女で、細すぎず太すぎない身体を白い割烹着に身を包んでいた。
名前を長田小夜(おさだ さよ)といい、茄緒の借りた借家の大家であり地主でもある。