檸檬の黄昏
一方、その頃。
茄緒に事務所を追い出された耕平と敬司は、道の駅にいた。
敬司のジープが駐車場に停車している。
「暑いな」
夏の日射しが容赦なく男ふたりに照りつける。
建物内に入って長身の男ふたりは、自販機の前に立つ。
「これからは、こいつを使おう」
耕平が自販機をノックするように指で軽く叩く。
自販機に商品の何が売れたのかわかるアプリを入れる。
受注商品は全て自販機で販売する。
売り上げ状況はネットで随時依頼主に送信され、補充したい場合、代理店に配送し補充を行う。
無人で売ればかなり料金を抑えられるし、出張回数も減るはずだ。
敬司が顎をなでる。
「いいな。早速、知り合いに試作品作ってもらうか。何で気づかなかったんだろうな」
「まったくだ」
耕平は自販機でミネラルウォーターとコーラを購入し、コーラを敬司に渡す。
ペットボトルのキャップをひねると、口をつける。
それから茄緒の何気ない言葉を話した。
弁当が自販機で買えればいいと。
「茄緒ちゃんらしいな」
敬司が笑う。
「輸出品も何だかんだで食いもんだよな。売れれば、向こうのバイヤーも興味持つだろうし」
事務所で土産のバクラバを摘まんでいた茄緒を敬司は思い出した。
耕平も自分も新鮮味に欠けるのかもしれない。
「今までより依頼は増えて、数をこなす仕事になるな。とにかくやってみよう」
耕平は頷いた。
「外部の人間は大切だな。茄緒ちゃんは貴重な人材だ」
敬司は云いコーラを飲み干し、笑う。
「それにしても変わった子だな、茄緒ちゃんは。あれだけの美人だ。どこぞの富豪やボンボンに見初められてもおかしくない。今までも、そういうことはあったんだろうがな」
自らの美貌を武器に権力者に近づくことは良くある。
敬司や耕平とて、それは同じだ。
その度に駆け引きのようなゲームを楽しんできた。
茄緒ならば玉の輿に乗るくらいは簡単にできるだろう。
だが茄緒が男を手玉に取るような性格だったら、こんな場所にはいない。
「………茄緒は、そんな女じゃない」
ぽつりと耕平が呟く。
茄緒は良くいえば自然体の女性、悪くいえば垢抜けない田舎娘だ。
しかし毒のない眩しい笑顔に自分は………。
「そろそろ戻るか。茄緒ちゃんの機嫌も良くなったかもしれん」
敬司の言葉に現実に戻った耕平は、無言で頷いた。