檸檬の黄昏
墓参りを終えた相川姉弟が、懐かしい話しでしみじみとしていた、昼下がりである。
茄緒のスマホが鳴った。
「耕平さん?」
スマホの着信履歴の名前を見て、思わず茄緒は声を出した。
公休日に耕平から連絡が来るなんてことは、今までなかったからだ。
何か急な仕事か出張が入ったのか、と茄緒はスマホを耳に当てる。
涼は姉を見ている。
「え、バーベキュー?」
盆休み中、耕平の家でバーベキューをやらないかという連絡だった。
事務所でも、話したばかりだが……。
「麗香さんは大丈夫ですか?わたしがいても、変に思いませんか」
茄緒の言葉に、自宅でスマホを耳に当てていた耕平は麗香を見る。
耕平は自宅のソファに座りTシャツ、ハーフパンツ姿だ。
「問題ない。こっちには戻るのか?……ああ、じゃあ明日準備しておく」
耕平の通話が切れた。
茄緒も通話を切る。
「明日、耕平さんの家でバーベキューやるみたいなんだけど。涼も来ない?」
「行っていいの?」
「もちろん。今回は特に、涼がいてくれた方がいいわ」
涼が、やった、と指を鳴らして喜んでいる頃。
通話を切った耕平は、キッチンで昼食作りをしている麗香を呼んだ。
ノースリーブのトップスにミニスカートを身に付け、白いエプロン姿だ。
「なあに兄さん。もう少しで……」
「おまえ、茄緒に何を云った?」
ソファに座ったまま、耕平は麗香を見る。
麗香は顔を反らす。
「あたしは何も」
「茄緒がおまえに気を使ってる。理由はなんだ」
「知らないわよ」
麗香は語気を強めた。
「あたしはただ、沙織姉さんと兄さんの邪魔をしないで、と云っただけよ」
麗香の言葉と茄緒の言動を全て理解し、耕平は軽くため息をついた。
「麗香。おれもいい歳だ。そういうのは止めろ。茄緒に謝れ」
耕平は電子煙草を取り出す。
「おれ達は仕事を共にしているが、友人でもあるんだ。ギクシャクするのは困る」
特に敬司は自分の野望というか目標達成には茄緒は不可欠、と鼻息を荒くしているので、茄緒をこじらせたくないのだ。
耕平は煙草を口に当てる。
「まったく。おかげで敬司には当たられる、明日はバーベキューを強制的にやらされるで、散々だ」
耕平は煙草をくわえた。
「じゃあ兄さんは、茄緒さんを何とも思ってないの?」
麗香が、耕平を見つめる。
耕平は煙を吐き出す。
「……」
「兄さん、やっぱり茄緒さんのことが」
「麗香」
遮るように耕平が口を挟んだ。
「余計な詮索はするな。おまえには関係ない」
いつもの耕平の口調だが、明らかに深入りを拒否している。
初めて見る耕平に、麗香は口をつぐんだ。
電子煙草をポケットに戻すと、耕平は立ち上がる。
「とにかくだ。明日、謝れよ」
耕平が玄関に向かうと、麗香が声をかける。
「どこへ行くの?いま、お昼……」
「煙草買ってくる。すぐ戻る」
耕平は言い残し、玄関から出て行った。