檸檬の黄昏
茄緒の家の檸檬の木は緑色の実を付けて夏の日射しを堪能し、耕平宅では皆でバーベキューを楽しんでいた昼下がりである。
この日も地方の講演会に出演していた美貌の弁護士、禿雅史は来場者からの質問に回答していた。
好きな物や恋愛感についての質問だ。
「ぼくは美しい物が好きです。見た目にも中身でも。光っていて綺麗だなと思います。来場の皆さんは、どなたも美しくて、ぼくは幸せですね」
禿が天使の笑顔を見せると、会場の女性から黄色い声が飛ぶ。
「ぼくは、好きな人には一途なんですよ。独占欲が強いのかもしれません」
ますますファンを獲得し和やかな雰囲気で講演を終えようとした時間である。
「あと実は、人を探してるんですよ」
禿が云った。
会場の進行役の女性が、どなたですか、と訊ねる。
「この方です」
禿が来場者に向けて差し出したのは、道の駅の紹介記事だった。
そう、後ろ姿の茄緒が写った、あの記事である。
「名物、美人売り子さんのオススメ、とありますね~。確かにこれは素顔が気になりますね」
「でしょう?」
禿は笑顔で答える。
「とても気になっているので、知っている方、ぜひ教えてくださいね」
「ということですので。情報、お待ちしております。今日はありがとうございました」
禿が来場者に頭を下げ講演会は終了する。
「勝手なことをして、すみません」
禿が司会者やスタッフに頭を下げる。
「まあ生講演ですから、ハプニングもあります。それにしても禿先生の探し人なんて、反響がありそうです」
「そうですか?早く会えるかな、楽しみです」
禿は笑顔だった。
これで遅かれ早かれ向こうには打撃を与えたはずだ。
茄緒が沈黙しても禿のファンは見逃さない。
「どうしてるかな、ぼくの茄緒は」
禿の美貌がどことなく悪魔じみており、じわじわと禿が迫ってくる様は獲物を狙う蛇のようであった。