檸檬の黄昏
都内某所。
涼と石田は会う約束をしていた。
石田の勤める新聞社の新聞に、涼の記事を掲載するためのインタビューだ。
詰め込んだスケジュールの間に時間を割き請け負ったようで、時間も十五分足らずの短い時間であった。
海の見えるレストランの一角を貸し切り取材と撮影を行う予定になっている。
石田のインタビューが終わった後は、そのまま食レポ撮影を行う予定だ。
やがて涼がマネージャーの女性と共に来店し、先に撮影準備で店で待機していた石田に涼は笑顔で握手する。
マネージャーがスタッフと打ち合わせをしている間に、石田は涼に耕平の会社へ取材を行ったこと茄緒と会ったことを話した。
無理を承知で引き受けてくれた涼に感謝を述べつつ、石田は言葉を続ける。
「だからまた、こうして涼君にも会えたわけだ。ナオさんは相変わらず綺麗だね」
「姉は喜んだでしょ?」
石田は苦笑する。
「ナオさんには今や守り神がついてるから。うかつには近づけないけどね」
石田の言葉に涼は愉快そうに笑った。
「そうですね。今日の取材の代わり、といったら何ですが。石田さんに頼みがありまして」
「なんだい?」
石田は涼を見る。
「禿のことです」
石田は息を飲んだ。
「訊いてくれますよね?石田さん」
涼が石田を見つめた。
否定の選択はないと、それは云っていた。