檸檬の黄昏
涼だった。
「どうして……涼が?わたし、どうしたの?」
涼はベッドへ近づくとベッド横に置いてあったパイプ椅子に腰をかける。
「姉ちゃんが朝のアルバイトに来ないから、みんな心配してくれたんだ。大家さんが倒れてる姉ちゃんを見つけて、救急車呼んでくれたんだよ。熱中症だってさ」
驚いた小夜が救急車を呼んだあと敬司に連絡をして、涼に繋がったらしい。
日付を確認すると丸1日経過していた。
ほぼ1日、眠っていたようだ。
「そうだったんだ。わたし……」
「疲れてたんだよ、姉ちゃん。無理しすぎ。明日には退院できるってさ。よく休んで」
思い出せないようにしているのか云いかけた茄緒を遮るように、涼が言葉を挟んだ。
そうだ。
あの時もそうだった。
「わたしの家は」
「敬司さんの車を停めてある。中には入ってない」
茄緒は涼を見た。
思い出したように茄緒は、ゆっくりと上腕を触った。
痛みがある。
「雅史が来たのよね。……そっか、みんなにわたしの火傷、知られちゃったのかな」
茄緒が独り言のように云った。
その言葉に涼の瞳が確信と怒りの色に燃えあがる。
だが平静を装っていた。
「来てくれてありがとう涼。忙しいのに。わたし、また……」
「なに云ってんだよ、家族だろ」
涼は笑顔を見せる。
それから腕時計に目を落とす。
黒のGショックだ。
「おれはもう帰るけど……姉ちゃん。耕平さんを信用しなよ。また連絡するから」
涼はフードを目深に被り立ち上がる。
「またな」
病室を後にするとドア横にスーツ姿の耕平が腕組みをして、壁に背を預けて立っていた。
「耕平さん。あとは姉をよろしくお願いします」
涼が頭を下げる。
サングラスを付けると涼は病院を後にした。