檸檬の黄昏

時間は流れ禿雅史の講演会である。

最前列に招待された企業関係、関係者席があり、そこに敬司、耕平、茄緒が椅子に腰かけている。


耕平と敬司と共に茄緒も参加することになったのだ。


男二人は完璧なビジネススタイル、茄緒はドレス姿だ。
周囲の女性の視線を耕平が集め、茄緒にも敬司にも視線が集まる。


「派手過ぎませんか?わたし」


茄緒が隣の敬司に話かける。


「いいんじゃない?おれはまた見られて嬉しいよ。おれは珍獣扱いだけどな」
「そんなことありません。敬司さんは素敵ですよ」


敬司が笑う。
耕平は不機嫌だ。


「どんな講演するのか知らんが、早く終わってほしい」


不満にそうに耕平が云う。


「そうですね」


茄緒が頷いた時、場内にアナウンスが流れる。
どうやら時間のようだ。
照明が薄暗く落とされ壇上のみ明るくなっている。

そこへ禿雅史が現れる。

天使のような美貌に加え、自信というオーラかみなぎっているのがわかる。
だが他者への気遣いも伺える行動。
全てにおいて、禿は完璧に見えた。


「皆さん、こんにちは。本日はお忙しいなか、足を運んで下さってありがとうございます。よろしくお願いいたします」


禿がステージ上から見回し茄緒を見た。

瞳が合う。

反射的に茄緒は身体が硬直し腿の上の手を固く握る。
壇上からの冷たい視線。

茄緒は耐えることが出来ず視線を反らせた。
身体が強張る。


そこへ隣から耕平の手が伸び茄緒の手に重ねられた。


耕平に目を向けると耕平が茄緒を見つめていた。



大丈夫だ



暗がりだが耕平の口が、そう動いているように見えた。

緊張が途端に緩み茄緒は頷く。
講演会の間、茄緒は耕平の大きな手を握っていた。


それを視界におさめながら禿は何でもないように講演を始めた。


耕平の口の端に、どことなく挑発的な笑みが浮かんでいる。






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