檸檬の黄昏

檸檬の黄昏


数年後。

耕平と敬司の会社は懸案通りに新しい新人営業を雇い入れ、日々奮闘している。


事務員も増やし以前より更に仕事は楽になったかといえば、それだけ事業を拡大したので、仕事量は変わらないのかもしれない。


敬司は計画通りに不動産業でも成功を収め、奥方と共に趣味のバイクや車にゲームと、ますますのめりこんでいる。


ちなみに半年ほと前に奥方は女児を出産しており、これからは更に賑やかになりそうだ。


禿の所有していた不動産も今は全てを手中に収め、禿は監視の元で細々と暮らしている。


そう彼は耕平と敬司に社会的制裁を受け、耕平の宣言通り潰されたのだった。

完全に財産を取り上げたわけではなく管理下の元で生活しており、茄緒に近づくことは二度と出来ない。



輸出代理店も支店を海外に増やし、今や世界を又にかける大企業となった。


耕平が昔、一緒に働いていた外資系企業の同僚の目にも止まり、転職を希望してくる者もいるほどだ。


そして。


茄緒と耕平は再びあの借家の土地へ戻って来た。


事務所と借家の建ってい場所には現在、二人の新居が建っている。
リフォームして暮らしたかったのだが基礎部分からの老朽化が酷く、建て直しとなった。


渋る敬司から土地を売ってもらっただけ感謝すべきところである。


ふたりともにお気に入りの場所であり、また家を失いたくなかったのだ。


リビングには耕平の家族と撮った写真、茄緒がカナダで鮭を釣り上げ笑顔の写真が飾られ、ウッドデッキには茄緒が育てている、あの檸檬の木の鉢植えが置いてある。

すっかり大きくなり毎年、実をつけるようになり今も誇らしげに黄色い果実を実らせていた。


茄緒の夢であったペットを飼うという行為であるが、それはまだ叶えていない。
問われた茄緒は耕平を見つめ赤面し、ためらった後に口を開く。


「大きな寂しがりやの獣がいますので、もうしばらくは大丈夫です」


茄緒の言葉に耕平は沈黙するしかなかった。




近場には新たな本社事務所と借家とアパートを建て、社員の寮として貸し出している。


本社事務所とは云っても、ここは空港近くに建てた高層ビルとは違う。
そこではすでに新たな代表取締役社長がおり運営を行っている。


ここは耕平が半ば隠遁生活を送るため、別に構えたようなものだ。


結果としては道の駅にも自然と客が増えることになり、地域活性化にも貢献したようである。


もちろん田舎暮らしが嫌な者もいるので強制はしていない。


今や都内でも海外でも、どこでも支店はあるので好きな勤務地を選べるようにしてある。

そして田舎で新たに構えた事務所で。
五階建てのビルである。


「……」


うねりのある黒髪に白髪の混じるようになった耕平が、チェアごと身体を回転させて背を向けた。

シャツにスラックス姿である。

広くなり人数も増やした新たな事務所のCEO室で、耕平の静かな怒りが響き渡る。

デスクを挟んだ向こうには二人の男が立っている。
入社仕立ての若い新人営業、それよりは十歳年上の営業部長である。

営業が先鋒でミスをし巨額損失を出した上に契約が危うくなったのだ。


当然、耕平は不機嫌だ。


新人の営業は顔面蒼白で部長と共に冷や汗を流し、低頭している。

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