檸檬の黄昏
耕平の車で川原まで移動する。
以前のSUVのモデルチェンジした新型車であるが、ワイパーレバーには茄緒が再びこっそりと付けた、あのアンコウストラップが揺れており茄緒は嬉しそうだ。
川原はいつも変わらない。
茄緒が履歴書を持ち耕平を追いかけた、あの頃と同じである。
そこで年数を重ねた二人が肩を並べ釣りをしている。
「今日も勝負ですね、耕平さん」
「おれが勝つに決まってるさ」
もうバーベキューは始まっている頃だろう。
敬司や涼が場を盛り上げているに違いない。
空が暗くなり西の空の地平線に夕陽の赤い線を作り始めた時刻。
ふたりの釣り勝負は平行しているようだ。
茄緒が耕平の顔を覗き込む。
「負けたらどうします?」
「負けても勝っても、今からキスする」
「なんですか、それ?」
耕平が茄緒を抱き寄せた。
沈む夕陽に照らされた二人の影が近付き、重なる。
お互いに酸っぱく傷ありの道のりを歩んだ二人だが、ようやく砂糖を手に入れ甘い甘い道のりを再び歩み始めていた。
檸檬に訪れた黄昏は、甘い芳香を放っている。
『檸檬の黄昏』 終わり