リライト
兎にも角にも、このパサパサな髪をどうにかしなければと美容院の予約もいれた。失恋ついでだ、バッサリ切ってこよう。
気持ちを切り替えて、寝間着から大差変わらないけれどロンTとGパン、そして少し毛玉が付いている黒のロングカーデを羽織って家を出た。化粧も最低限、コンタクトを入れる気力もなかったことから家でしか使わない黒縁の眼鏡もそのままで。
どうせ誰にも会わないし会うつもりもないし。そう思ったのが全ての間違いだった。
「あ、いたいた。お疲れ様です、ライン入れても連絡ないから失恋のヤケ酒飲みすぎて中毒死したかと思いましたよ。はいこれケーキです。」
マンションのエントランスを出たら目の前に、そうこの間と寸分も変わらない笑顔であたしに手を振る見掛け好青年が立っていた。
さぁぁぁと血の気が引く。目の前が真っ暗になった様な気もしてきた。そして頭の中ははてなマークだらけだ。
「な、な、な…」
言葉が続かない。けれど彼はそんなことはお構い無しだと云わんばかりに言葉を捲し立てる。
「しかも何ですかこの格好。あんたやる気あるんですか。育児に疲れた母親じゃないんだから、化粧くらいしなさいよ」