一年後の花嫁
『ちょっとみんな、話聞いてー!すぐ終わるからー!』
教卓で声を張り上げるのは、隣の席の長妻美波。
学級委員の彼女は、体育祭の種目メンバーを今日中に決めなければならないと、一人躍起になっている。
バイトが、部活が、だるい、そんなことを言って帰ってしまった奴らも数人。
それでも彼女は、変わらず声を張り上げていた。
『リレーは、体育の授業で計ったタイム順でいいですかー?』
『えー、俺パス~』
『私もやだー』
あちらこちらから、そんな大人げない野次が飛んだ。
一応男の学級委員もいるのだが、じゃんけんで負けたあいつにとっては、至極面倒なようだ。
誰も意見なんて言っていないのに、黒板と向かい合って、俺たちには背を向けて微動だにしない。
だからもちろん、彼女をフォローすることもない。
『もー、そんなこと言わないで~』
長妻は、顔は可愛い……というか、純朴そう、というか。
よしよし、とつい頭を撫でまわしたくなってしまうような、子供みたいな子だ。
声も、男のツボを刺激してくる愛らしい声をしている。
バレー部の決まりなのか知らないが、いつも髪は短くて。
例えばミスコンを取れるようなイマドキの女子とは違う、素朴な、天然の魅力が溢れていた。
もちろん見た目だけなら、実は人気も高い。
それなのに、彼女は典型的な学級委員タイプの女子で、そこが玉に瑕なのだ。
見た目のまんま、ぽーっとした子であったら、彼女の人気はそれこそうなぎ上りだったろう。
結局この日、ほとんどの種目が出場するメンバーが決まらず、決定権は先生に委ねられることになった。
長妻は疲れ果てた顔で、だけど相変わらず笑顔は絶やさずに、前の席の友人に「もうやんなっちゃう」なんて愚痴を吐く。