一年後の花嫁
『お疲れ』
『ちょっと藤堂くん。藤堂くんからも言ってよ、西野くんに!なんにもしないんだから』
『まぁまぁ』
とんだとばっちりだった。
西野というのは、長妻の相方。つまり男の学級委員である。
『てゆうか。藤堂くんに学級委員やってほしかったな。人気者なんだし』
『はぁ?なんだよそれ』
『本当のことじゃない。藤堂くんが言えば、大半の女子が言うこと聞くよ』
長妻はそう言って、血色の良い薄い唇を尖らせた。
突き出した唇はあひるのようで、素直に可愛い、と思ってしまう。
『長妻もそうやって大人しくしてれば、大半の男子が言うこと聞くと思うよ』
『はー!?』
『ほらそれ。うるさいんだよ、声が』
こうやって、いつも言い合いしていた。
高一のときからクラスが一緒で、出席番号も近くて、部活も同じ体育館だったし、なんだかいつも気付けば、彼女がいた気がする。
だけどそれは、恋ではなかった。
現に俺には彼女がいたこともあったし、長妻だって同じだ。
あくまで腐れ縁の友人。
そう思ってた。
「当日まで、よろしくお願いします。藤堂さん」
「あ、お、おう……こちらこそ」
俺が懐かしい思い出を掘り起こしているうちに、いつの間にか長妻は、“加藤様”に戻っていた。
慌てて俺もプランナーに戻ったものの、まったく、頭が追いついていかない。
長妻は、十三年前、高校二年の夏を最後に、俺の前から消えた。
新学期になって、長妻美波は家庭の事情で引っ越した、と担任は言っていた。
なぜ最後の日、彼女は俺にそれを言わなかったのか。
最後の日だとわかっていたら、俺だって……
そう後悔し続けて、十三年。
目の前にひょっこり現れた彼女は、長妻美波ではなく、加藤美波になっていて。
あと数か月後には、川島美波になろうとしていた。