一年後の花嫁
「……川島様のタキシードは、また来月ですね。何色がいいとか、もうお考えですか?」
よし。いつもの俺だ。
プランナーの藤堂だ。
「そうですねー、正直なんでもいいんですけど。やっぱ無難に白とかグレーですかね」
「いいですね、やはりそういった淡いお色の方が、チャペルによく映えるかと思います」
「こんなこと言うのもあれですけど、本当は結婚式なんてやらなくていいんですよ。だけどこのご時世、やらなきゃやらないで、上司とか両親とかうるさいでしょう」
スマートフォンに視線を落としたままの川島様。
人の目を見て話す。
それは人としての基本じゃないのか。
……なんて怒りは、持ってはいけない。
お客様は神様だから。
結婚式に対する考え方は、たしかに人それぞれだろう。
川島様の言うように、世間体を気にされる方も、もちろんいらっしゃる。
ただ、さっきからそうなのだが。
彼はどうにも、人の気持ちに疎いようだ。
少なくとも俺の目には、長妻……“加藤様”は、楽しみにしておられるように映った。
そんな妻を前に、よく平然とそんなことが言えたものだ。
「……たしかに、そうかもしれませんね」
感情を押し殺して、そう返すのが精いっぱいだった。
またネクタイを、ぎゅっと握りしめる。
「お待たせしました~」
するとちょうどいいところで、試着室のカーテンが開いた。
長妻の、ウェディングドレス姿。
正直に白状すれば、もう衣装室に予約が入ったその日からずっと。
俺はそのときを、楽しみにしてしまっていた。