一年後の花嫁
「どうでしょう」
シルクの光沢が上品なドレスには、足元に豪華な刺繍が施されている。
なんの装飾もないシンプルなシルクのドレスと比べて、見た目だけはほわっとしている、長妻の雰囲気にぴったりだった。
胸元のビジューが、試着室の明るい照明に反射して、わずかに動くだけでもキラキラと輝く。
くっきりと主張する鎖骨、オフショルダーの袖からすっと伸びた、真っ白で華奢な腕。
顔のラインに沿ってゆるく巻かれた後れ毛と、耳元のパールのイヤリングが気品を漂わせ、照れているのか、それとも着替えに手間取ったせいなのか。
彼女の頬は少し紅潮している。
― 息をのむほど、すごく、綺麗だった。
「大変お似合いです」
一応プランナーとしてそうは言ったものの、なにより、誰よりも一番に、そう伝えたかった。
隣で腕を組んで、表情一つ変えない川島様には、負けたくなかった。
「少し、子供っぽいんじゃないか?なんかデザインがさ」
「……そうかな。すごく綺麗なドレスだなって思ったけど」
「いや、ドレスは綺麗だよ。でもお前が着ると、子供っぽい。ただでさえ童顔なんだから、もっと大人っぽいやつにしろよ」
そんな言い方……、つい俺がそう口走ってしまいそうになったときだ。
「では、こちらの刺繍のない、シンプルなドレスも一度着てみましょうか」
新田さんはそんな俺に気付いたかのように、さっとカーテンを閉める。
……新田さんに、救われた。
危うく俺は、あくまでお客様であるご新郎様に、盾突こうとしていたのだ。
「それにしても、あの新田さん?でしたっけ。可愛いですね~社内でも人気なんじゃないですか?」
薄ら笑いを浮かべた川島様には、はらわた煮えくり返りながらも、なんとかそれとなく答えられていたと思う。
今の俺は、プランナーだ。
長妻のかつての同級生、藤堂明人ではないのだ。
呪文のように、何度もそう頭の中で繰り返した。