一年後の花嫁
次にカーテンが開いたとき、俺は心の中で「やっぱり」と声をあげる。
どう見ても、一着目の方が彼女に似合っていたからだ。
しかし川島様は、「こっちの方がいい」と手を叩く。
「こっちの方が似合ってるじゃないか。大人っぽく見えるよ、お前でも」
「そうかな……」
明らかに彼女も、一着目の方が気に入っているのだろう。
まったく納得のいかない顔で、川島様を見つめている。
そんな姿を目の当たりにして、どうしても俺の中で、長妻美波と、目の前の加藤美波は、結びつかなかった。
こんなとき長妻だったら、声高らかに自分の好きな方を主張しそうなものだ。
大人になって少しは空気を読むようになったのかもしれないが、それにしたって、今はそのところじゃない。
自分の思ったことを主張していい、数少ない場のはずだ。
「……いったん、私どもは席を外しますので、お二人でご相談してみてください」
一応式場の決まりとして、俺たちがいると率直な意見が言えないだろうということで、何度か席を外す決まりになっている。
それを遂行したまでなのだが、俺も新田さんも、それに救われていた。
「私、もうそろそろキレてしまいそうです」
「あぁ、すごくわかる。あのご新郎様、打ち合わせの時もあんな感じだったんだ」
俺は新田さんに、限定味のチロルチョコを差し出した。
「この後さ、きっと二着目にしますって言うと思うんだよ。だけど絶対どう見ても、一着目だろ?」
彼女は限定味に目を丸くしながらも、俺の話に耳を傾け、こくこくと何度も力強く頷いてくれる。
「あのご新郎様、世間体をかなり気にされる方のようだから。なんかそこを突くいい文句で、一着目に誘導してあげてくれないかな」
「あ、これ、賄賂ってことですか」
目を細めた彼女は、それを口に含んで、「任せてください」と敬礼した。
……たしかに、川島様の言う通り、可愛らしい子ではある。