一年後の花嫁
一回で試着を終える新婦様は、割と少ない。
しかし彼女は、もうこれで決定で、とたった二着で答えを出した。
夫になるその男と並んだ背中は、とても不自然に見えて。
彼らがお互いの片割れとは、到底思えなかった。
それは俺の願望も含まれているかもしれないが、プロとして見ても、きっと答えは変わらないだろう。
「新田さん、今日は本当にありがとうね。助かったよ」
「いえいえ。簡単な男でよかったです」
「しーっ、聞こえたらどうすんの」
式場自慢の日本庭園を横断しながら、新田さんは悪い顔をして俺を見た。
「藤堂さん、彼女いるって聞いてますけど。あのご新婦様と、お知り合いなんですか?」
「え……いや。いや、あのー……」
俺としたことが。
あからさまに動揺してしまったじゃないか。
「あーやっぱり。なんとなくそう思ってたんですよね~」
「……みんなには内緒ね。色々やりずらくなるから」
ポニーテールを揺らしながら、くすくすと笑う彼女は、俺に手を差し出した。
「もう今日はチョコ持ってないよ。明日持ってくるから」
「違います、連絡先。教えてください」
「は……?」
なんだかすごく、嫌な予感がしていた。
こんなに若くて可愛い子だ、きっと俺の勘違いだけど。
仕方なく俺はメモにメッセージアプリのIDを書いて、彼女のその手に握らせた。
それをさも大事そうにポケットにしまった彼女の姿からは、目を逸らす。
俺お得意の、見ないフリだ。
「じゃあ、また」
揺れるポニーテールには、不思議な魔力があるらしい。
絶対面倒なことになるとわかっていながらも、俺は彼女からの連絡を、心のどこかで待っているように思えた。