一年後の花嫁
それからの俺は、大体月に一度の“加藤様”との打ち合わせを、心待ちにしていた。
そう。
案の定、打ち合わせにあの男が同席することは、いまだない。
彼女は、夫になるあの男がいると大人しくなるが、俺と二人のときには、昔と変わらない無邪気な笑顔を見せてくれるから、それはそれで都合が良いのだが。
「藤堂さん、これは……」
ただやっぱり、彼女にとって俺はただのプランナーで。
再会したあのときを最後に、決して「藤堂くん」とは呼ばれなかった。
だから俺も、彼女を「加藤様」と呼び、“プランナーと新婦”、それ以上のものは、そこに存在しない。
「では加藤様、次は来月の三日でよろしいでしょうか」
「はい。よろしくお願いします」
「次回は、ざっくりと進行について決めていきますので、川島様ともご相談なさってくださいね」
彼女は少し黙り込んで、それから急に、庭園を案内してほしいとせがんだ。
「急にどうしました?」
「あの……紅葉。紅葉が綺麗みたいだから、見てみたくて」
取ってつけたような台詞に、俺が気付かないはずがない。
だけど、俺は得意の見ないフリ気付かないフリで、彼女に庭園を案内することにした。
先に言っておくと、庭園を新郎新婦様にご案内するのも、立派なプランナーの仕事だ。
……契約後となると、そう滅多にはないが。
「ここ、河津桜が咲くんです。少し時期がずれれば、ちょうど挙式の頃に咲くかもしれませんね」
「河津桜って、あの濃いピンク色のですか?」
「そうです」
なんだか、おかしな気分だった。
何十年振りに肩を並べて歩いているというのに、お互いによそよそしくて。
とても旧友なんかには見えないだろう。
「そういえば、入籍は来月でしたよね」
池の鯉を眺めてる彼女は、その言葉に一瞬、顔をしかめた。
そう、まさに苦虫を噛み潰したような顔。
「……そうなんです。あっという間ですね」
しかしすぐに彼女は、顔を取り繕った。