一年後の花嫁
たがが外れたように、彼女はずっと涙を流していた。
「なんで泣くんだよ」
「長妻、なんて藤堂くんが呼ぶからでしょ」
言われてみれば、俺が彼女を“長妻”と呼んだのは、再会してから初めてだったかもしれない。
彼女は泣いているのに、その口元は嬉しそうに緩んでいて。
俺も同じように、あの頃みたいに涙を見せてくれた彼女が、嬉しかった。
まるであの頃にタイムスリップしたみたいに。
俺の胸はドキドキうるさい。
ただあの頃と違うのは、彼女に胸を貸してあげられないことだけ。
「遅すぎたね」
ふっと微笑んだその姿に、何かが音を立てて崩れ去っていくのがわかる。
それは、二年間をともに過ごした千尋のことだったかもしれないし、年齢の割には早く出世コースに乗れた、プランナーの仕事のことだったかもしれないし、十三年間縛り付けられていた、長妻美波のことだったかもしれない。
「……籍、入れるの?」
「……言ったでしょ。もう引き返せないの」
今ここが、真っ暗だったなら。
きっと誰にも気づかれず、彼女を抱き締められただろう。
モミジの木を照らし出してるはずのライトが、まるで間違いを起こさないよう、俺たちを照らしているような気がした。
「そっか」