一年後の花嫁
北海道に行くと、私は“加藤美波”になった。
高校二年生の、しかも二学期での転校だ。
当然私の居場所はどこにもなくて。
いじめられていたわけではないけれど、特に仲の良い友達もいないし、「加藤」と呼ばれるのも慣れない。
父は夜勤の仕事を初めて、私は大半の時間を一人で過ごし、そんな日々がただ漠然と続いていった。
夜眠る前。部屋の明かりを消すとき。
「長妻」と私を呼ぶ藤堂くんの声を、いつも思い出していた。
そうしたらなんだか、あまり寂しくないような気がして。
あのとき。あの花火大会の夜。
せめて引っ越すことくらい、伝えたらよかった。
今は携帯があるんだから、こんな寂しい夜に、話をすることくらいできただろうな。
今、たった一言でも、彼が私を呼んでくれたら。
考えても仕方ないことを、夜な夜な考えていたし。
どうしてあのとき、強がってしまったんだろう。
そう何度も何度も、後悔した。
だけどもちろん、想うだけじゃ、日々はなんら変わることはなくて。
大学生になると、藤堂くんがよく言っていた通り、大人しくなったせいなのか?
加藤美波は、男性からよく声が掛かるようになった。
それをいいことに、私は彼らで寂しさを埋めようと躍起になって。
いつからか、好きとかそうじゃないとか、そういう感情がわからなくなった。
ただずっと心にあったのは、藤堂くんのことだけ。
でもそれが好きなのかと問われると、それもわからないけれど。
きっと一番いい頃の自分に、しがみついているだけだったかもしれない。