一年後の花嫁

そんなどうしようもない毎日の中で、直也と出会ったのは、六年前。

上京したはいいものの、勤めて二年足らずで会社が倒産し、さっそく無職になった私。
たぶん、途方に暮れる私がよっぽど幸薄く映ったのだろう。
公園のベンチで中華まんを頬張る私に、「仕事探してませんか?」と怪しく声を掛けたのが、彼だった。

彼は、いわゆるベンチャー企業の人事担当で、若い人材を探しているのだと言っていた気がする。
あの頃の私はやっぱりまだどこか無鉄砲で、そんな彼に容易くついて行ってしまったのだ。

あれはたしか、それから三年が経ったくらいだった。

『加藤さん。最近仕事はどう?』

通い慣れた、直也の行きつけのバー。
ジャケットを脱いで露わになった白いシャツの下は、さぞトレーニングされているのだろうことをうかがわせる。
くいっとグラスを傾ける横顔は、もうあのときですら何度見たかわからなかった。

『すごく楽しいです。後輩もできましたし』

『そっか』

あの頃の直也の優しい笑顔、もうずっと見ていない気がするな。

『俺さ……転職しようと思ってて』

その日直也は、いわゆるヘッドハンティングってやつで、知り合いの会社に移ろうと思っていると言った。
そして、私と離れることが寂しい、とも。

『それって……』

『俺と、付き合ってほしい』

それが、私たちの始まりだった。

< 36 / 63 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop