一年後の花嫁
そんなどうしようもない毎日の中で、直也と出会ったのは、六年前。
上京したはいいものの、勤めて二年足らずで会社が倒産し、さっそく無職になった私。
たぶん、途方に暮れる私がよっぽど幸薄く映ったのだろう。
公園のベンチで中華まんを頬張る私に、「仕事探してませんか?」と怪しく声を掛けたのが、彼だった。
彼は、いわゆるベンチャー企業の人事担当で、若い人材を探しているのだと言っていた気がする。
あの頃の私はやっぱりまだどこか無鉄砲で、そんな彼に容易くついて行ってしまったのだ。
あれはたしか、それから三年が経ったくらいだった。
『加藤さん。最近仕事はどう?』
通い慣れた、直也の行きつけのバー。
ジャケットを脱いで露わになった白いシャツの下は、さぞトレーニングされているのだろうことをうかがわせる。
くいっとグラスを傾ける横顔は、もうあのときですら何度見たかわからなかった。
『すごく楽しいです。後輩もできましたし』
『そっか』
あの頃の直也の優しい笑顔、もうずっと見ていない気がするな。
『俺さ……転職しようと思ってて』
その日直也は、いわゆるヘッドハンティングってやつで、知り合いの会社に移ろうと思っていると言った。
そして、私と離れることが寂しい、とも。
『それって……』
『俺と、付き合ってほしい』
それが、私たちの始まりだった。