一年後の花嫁

「うわ~久しぶりに中入った!やっぱ綺麗だね~」

「今日は特別な。人いないし」

そう、人がいないのをいいことに、俺は長妻を、本番と同じチャペルに連れ出した。

ガラス張りのチャペルには、庭園の緑を介して日差しが降り注ぐ。
それが反射しているのか、それとも本当に喜んでくれているのか、彼女の瞳は、先ほどまでよりもずっと綺麗に輝いていた。

そんな彼女が、あまりに可愛くて。

「ん」

「……え!?」

つい、昔の俺がうずいた。

彼女の右側に立って、腕を組むよう目で訴えかける。
そんな俺の姿に、案の定彼女は、二歩も三歩も後退りした。

「予行練習って言ったじゃん」

「や、そうだけど……えー……いいの?」

もじもじしながらも、次第に彼女との距離が縮まる。
……自分で言っておいて、急に緊張してきたことは、彼女に悟られないようにしなければ。

「藤堂くんって、みんなにこんなことするの?もう、ほんと昔からそういうとこ……」

ぶつぶつ言いながらも、彼女の右手が、俺の左腕を随分と控え目に掴む。

「はいはい。歩くよ」

情けないほど、俺の心臓はうるさく高鳴っていた。
どうにもこの心臓は、今も昔も彼女にだけは弱いらしい。

「なんか、変なの」

「なにがだよ」

「だって藤堂くんとこんな」

「練習だって言ってんだろ」

確かではないけれど。
きっと彼女も、少なからず緊張していたような気がする。

バージンロードを歩いているというのに、俺たちはあまりに口数が多かった。

< 39 / 63 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop