一年後の花嫁
もう戻れなくなった。
もうなかったことにはできない。
長妻には婚約者がいて、俺には彼女がいて。
長妻はご新婦様で、俺はプランナーで。
そんなことは、当然わかっている。
今俺たちがしていることは、どう足掻いたって、絶対にいけないことだ。
俺も長妻も、これが最後だとわかっていたからなのか。
まるで忘れることのないように、何度も何度もお互いの感触を確かめあった。
「結婚、すんなよ」
すっぽり俺の腕に収まった彼女は、その言葉にぎゅっと腕の力を強める。
「……もう無理だよ。引き返せない」
彼女がそう答えることは、なんとなくわかっていた。
キスをしたからって、そんな簡単に覆せることじゃない。
結婚って、そういうことだ。
「藤堂くん……もう一回だけ」
さっきよりもずっと深く、長く、このまま時間が止まってくれたらいいのにと、そう願いながら。
「何回でもするよ」
一回なんかで、終わらせない。
嬉しそうに、でも情けなく微笑んだ長妻に、俺はそう誓った。