一年後の花嫁

『長妻。今日部活終わり、いつもんとこな』

『え、なんでよ』

『いいから』

そんなある日、半ば強引に決められて、久しぶりの格技棟裏で二人きり。
なんだかずっと胸がむず痒くて、気持ち悪かった。

『最近避けてね?』

ぷちぷちと雑草をちぎりながら、藤堂くんは上目遣いに私を見た。
その顔は、まるで捨て犬みたいな。
いつだって上から目線の彼が、今までに見たことのない、情けない顔をした。

『別に、避けてないよ』

『じゃあなんで、最近ここ来なかったんだよ』

『……藤堂くん、デートで忙しいのに迷惑かなって』

『はぁ?』

呆れたような声を上げて、すっと立ち上がった彼に、あっという間に見下ろされたとき。

ぎゅっと胸が苦しくなった。

なんでかわからないけど、すごく彼に触れたいと思ってしまった。

『デートなんかしてねーよ』

『うそつき。この前騒いでたじゃない』

彼女でもないのに、まるで藤堂くんが自分のものみたいな口ぶり。
本当、藤堂くんといると私が私じゃなくなる。

『……あー、南高の?別に付き合ってないから』

『じゃあなんで、そんなにやにやしてるのよ』

付き合ってないと言いながら、彼の口元はだらしなく緩んでいた。
絶対、彼女を思い出してへらへらしてるとしか思えなかったけど。

『長妻も、可愛いとこあんだなって思って』

『……ちょっと!やめてよ』

『うるせーな~』

部活終わりで、まだ汗に濡れた髪の毛を、彼の大きな手でくしゃくしゃにされて。
そのときに見せてくれた彼の笑顔が、なんだかすごく特別な気がした。

“読モのナオちゃん”と付き合っていなかったこと。
……不本意だけど、可愛いとこがあるなんて言われたこと。
藤堂くんの片手で、私の頭の大半は収まってしまうとわかったこと。

一年生のときから、彼の彼女なんて何人もいた。
彼が好きだと宣言する友人もいた。
その頃は、別にこんなに感情があちこちにいくことなんてなかったのに。

それでやっと気付いた。

私は、藤堂くんのことを好きになってしまったんだと。


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