一年後の花嫁

長妻を見送ってすぐ、千尋からメッセージが届いた。
今日の夜ご飯はなにがいいか、なんて書いてある。

「……まだ行くって言ってねーわ……」

独り言のつもりだったのだが。

「やっぱりそうなんですかー?」

背後から突如聞こえた声。

「新田さん……!?」

「ふふ。木下さんなんですね、藤堂さんの彼女さん」

新田さんとは、あれから何回かランチに行ったが、どうも掴みどころのない子だ。
そして恐ろしく勘がいい。

「なんでそう思うの?」

否定も肯定もしないでおこう。
色々面倒なことになりそうだ。

「偶然ですけど。チャペル前での会話聞こえちゃいました~」

……あれを聞かれていたら、正直言い訳のしようがない。
明人だの、家に来いだの。
千尋にしては珍しく感情的だった。

「……でももう別れると思うから。言いふらさないでね」

「え、そうなんですか?別に良くないですか?」

新田さんはまあるい目で、不思議そうに俺を見つめる。

「いいって?なにが?」

「加藤様ですよね、さっきの。あっちにも相手いるんだし、藤堂さんが彼女と別れる必要あります?」

言葉を失う俺に、新田さんはさらに追い打ちをかけてきた。

「別に今時不倫なんて普通ですよ~。気にすることないです」

彼女はポケットからチョコを取り出して、可愛くそれを差し出す。

「あぁ……ありがとう」

なんとかそうお礼を言うと、彼女はポニーテールを揺らしながら去って行った。


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