一年後の花嫁
「―― では、あとは前日の持ち込みですが……」
「あぁ、前日は俺無理だから。お前一人で行けるよな?」
あの男の言葉に、静かに頷いた長妻。
「お荷物多いようでしたら、私が手伝いますが……」
「大丈夫です。ありがとうございます」
ぺこっと頭を下げた彼女が、見ていて痛々しかった。
……俺といたら、絶対そんな顔させないのに。
「それじゃあ。当日もよろしくお願いします」
あの男は、社長というだけあって外面はいいようだ。
にこやかに俺に挨拶をして、彼女を連れて式場を後にした。
去っていく彼女の後姿が、とても一週間後に挙式を控えた新婦には見えない。
連れ戻したい衝動を、必死に抑えた。
長妻の言う通り、もう間に合わないのかもしれない。
挙式は一週間後。
挙式費用も全額振り込まれているし、ゲストだってもちろん呼んである。
遠方の親戚たちは、航空券だってもう手配済みだろうし、なによりお互いの親が、一週間後を楽しみに待っているはずだ。
ドラマみたいに、当日俺が連れ去るっていうのも、現実には難しいだろう。
大抵ウェディングドレスの新婦を連れていたら、誰かしらには追いつかれる。
いくらあの二人がまだ入籍していないからといって、引き返すには随分遅いところまできてしまった。
俺がもたもたしていたから。
自分の保身ばかり考えていたから。
そんな後悔ばかりが、俺を襲った。