一年後の花嫁
「もうこのまま、婚姻届出さなくてもいいかもな」
「え?」
直也は私の三歩先で、突然そんなことを言いだした。
「事実婚、っていうの?そっちのほうが気が楽じゃん。俺子供もいらないし」
「……そっか」
中途半端な返事が、お気に召さなかったようだ。
振り返った彼は、小さく舌打ちをした。
「お前ってほんと、自分の意見ないのな」
自分の意見って……
そんなの言えるわけないじゃない。
言ったところで、全部跳ね返されるってわかってるのに。
「私も、それでいいと思ったから」
もうそんな私の言葉に、彼は興味を示さなかった。
電車に乗ると、仕事だと言って彼は先に電車を降りて。
仕事なんて言っているけど、それはたぶん嘘。
だって何一つ、今日は仕事道具なんて持ってきていないんだから。
こういうのをずっと続けてきたから、私たちはおかしくなっちゃったのかな。
―― それならいっそ、別れてくれたらいいのに。
もしかしたら直也も、私と同じなのかもしれない。
もう引き返せないところまで、きてしまった。
だから急に、籍を入れなくていいなんて言ったのかもしれないな。
こんな結婚に、なんの意味があるのだろう。
直也も私も、お互い違う人を見てるのに。
もう、どうしたらいいのか、全然わからない。