一年後の花嫁
幸せになるために
長妻の結婚式前日の夕方。
予定通り、両手いっぱいに荷物を抱えた彼女が、サロンへやってきた。
「持つよ」
「ん、ありがと~重かった……」
「言えよ、旦那に」
不服そうに頬を膨らませた彼女に、思わず笑みがこぼれた。
俺ものんきなものだ。
明日彼女は、あいつと式を挙げるというのに。
……明日が終われば、もう会えなくなるかもしれないのに。
「今日はこの辺泊まってるの?」
「うん、お父さんとね。明日朝早いじゃない?」
「そうだね」
他愛ない話をしながら、次々に荷物の確認を終えて、最後の一つ。
「……ピローケースは今日預かるから、明日受付で指輪も預けてね」
「はーい」
気の抜けた返事。
薬指に光る指輪は、あの日となんら変わらない。
もう俺が触れることはできないそれ。
「じゃあ……今日はゆっくり休んで」
月並みな言葉しか掛けられない自分に、ほとほと嫌気が差した。
伝えたいこと、もっとあるだろ。
「……庭園、散歩してから帰ろうかな」
長妻が出してくれた、最後の助け舟な気がした。
幸いにも、長妻の荷物搬入後は早上がりする予定だった俺は、それを伝えて慌てて帰り支度を済ませる。
もう今しかない。
これが本当に、本当の最後のチャンスだ。
ダウンコートのファスナーを首まで締めて、サロンに置かれているミニカイロを二つ、ポケットに忍ばせた。