一年後の花嫁
私が引きづりながら必死に持ってきた荷物を、片手でひょいっと取り上げて。
そのうえで嫌味まで吐いてくる。
そんなの、ずるいじゃない。
明日私は、花嫁になる。
きっと多くの女性が夢見る、人生でおそらく一日だけの特別な日。
それがこんなにも憂鬱だなんて、普通じゃない。
やっぱり私は、ここまでの選択を全て間違えたんだと、確信した。
隣にいるのが、藤堂くんがいいだなんて。
まるであの頃の私みたいに。
毎晩毎晩、彼のことを思い出して眠りにつく。
彼には彼女がいる。
彼女がいても、私に接する態度が変わらないのは昔からのことだ。
わかっているのに。
どうしても、彼に見つめられると期待してしまう。
それはきっと、私が彼を好きだから。
ただの願望。妄想。
そうに違いない。
「ん、あげる」
ぶっきらぼうに差し出された、小さなカイロ。
私はそれを、きっと一生大切に持っているだろう。
いまだに机の引き出しに忍ばせている、あの消しゴム同様に。
隣に藤堂くんが座ると、やっぱりほっとする。
このままもたれかかったりしたら、彼は拒否するかな。
……拒否はしなさそうだな。
相手が誰であっても。
マフラーに顔を埋めて、口元が緩んでしまったことを、気付かれないようにした。
―― また会えてよかった。
藤堂くんの口から出た、そんな言葉が。
ぐさっと深く深く、胸をえぐり取っていった。
もう遅いんだって。
もう、私は藤堂くんを選べない。
それなのに、そんな期待させるようなこと言わないでよ。
喉が少しずつ熱くなっていくのがわかる。
そして彼は続けた。
その空気感が、あまりに懐かしくて。
勘違いかもしれないけど、瞬時にまた私は、十三年前と同じことをしてしまった。
「藤堂くんも、幸せになってね」
自分が幸せじゃないくせに、一丁前にそんなこと言って。
本当、可愛くない。
どうして、こんなに臆病なんだろう。
藤堂くんが何を言うかなんて、わからないのに。
確かじゃないのに。
うぬぼれにも程がある。
だけど、その言葉の続きは、やっぱり聞いちゃいけないような気がした。
聞いてしまったら、もう本当に戻れない。
それどころか、私は自ら泥沼に足を踏み入れてしまいそうだから。
結局私は、またあのときと同じ。
自分を守ったんだ。