一年後の花嫁

「幸せに」

一番言われたくない人に言われたそれが、胸に突き刺さった。

一生懸命に藤堂くんから離れようと、足を速めたけれど。
信号で立ち止まると、私はもう歩き出すことができなかった。

マフラーの中で小さく漏れる嗚咽。
周囲の冷たい目線。

そんなのおかまいなしに溢れ続ける涙。


……なんで、こうなんだろう。

引き返せないって、そんなのただの言い訳だ。

直也に罵られるのも怖い。
この生活を失うのも怖い。

なにより、藤堂くんの気持ちが自分と同じとは限らない。

だから、ずっと予防線を張ってただけで。

私は十三年前と、なんにも変ってない。


―― お前って、ほんと自分の意見ないのな。


直也の言葉に反論するとしたら、ちゃんと私にだって自分の意見はある。

だけど、それを誰にも受け入れてもらえないのが怖いんだ。
だから、素直にそれを伝えられない。

物わかりがいいようで、ただの臆病者。

それが私。


「会いたい……」

小さく漏らしたそれが、叶うことなんてなかったはずだった。



「長妻」


ぐっと引かれた左腕。

彼だけが呼ぶ、特別な名前。


「……なんでよ……」


彼の温もりに包まれるのは、これで三度目。


素直になりたい。

藤堂くんと、一緒にいたい。


藤堂くんは、それを受け止めてくれる?

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