一年後の花嫁

「なんで泣いてんだよ、変人だろ」

「うるさい……道端でこんなことする方が変態」

青信号なのに、不自然に立ち止まったままの女性。
それは長妻に違いなかった。

振り向かせた彼女は、まぶたを腫らして泣いている。
そんなの、抱き締める以外なにができるって言うんだ。

「変態。彼女いるくせに。ほんとチャラい」

ドラマチックな展開と思いきや、やっぱり俺たちにそんなのは似合わないらしい。
俺の腕の中で、まだこいつは可愛げのない言葉を連発している。


「ちょっと黙って」

頬を軽くつねると、彼女は素直に言うことを聞いた。

柔らかい肌。
涙に濡れて、きらっと光るまつ毛。
瞬きも忘れて、俺を見上げるその顔に、今度は自然と言葉が溢れていた。


「長妻が好きだよ」


ぽろっとまた、彼女の目から涙がこぼれた。

「一緒に居たい。俺が幸せにしたい。もうどこにも行ってほしくない」

「……明日、花嫁になるんだよ」

「知ってる」

「知ってるってそんな簡単に……」

ぶつぶつ言ってるが、その顔が嫌そうには俺には見えなかった。

こぼれ落ちる涙を親指で拭うと、彼女の冷えた手がそれを掴む。


「……好き」


愛おしそうに、俺の手に冷たい頬を寄せた彼女。


こんなの。


どうしたらいい?


「時間……あるの?」

こくん、と控え目に頷いた彼女の手を引いて。


俺は、歩いてすぐの自分の部屋に、彼女を招き入れた。


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